サンフランシスコと東京を拠点にデザインの力でグローバルビジネスを成功に導くBtraxのCEO、Brandon氏に聞く、これからのAI時代のクリエイティブとは?第2弾の本編では、「AIは、デザイナーがよりよいデザインを生み出すためのツール」と定義する同氏に、より具体的にこれからのAI時代のクリエイター像についてうかがいます。
第1弾はこちら >>「ビジネスにおけるデザインのあり方と人工知能(AI)の本質」とは?
■クリエイティブとAIの関係性
Brandon氏曰く、「AIでクリエイティブの可能性は広がる」。
ゼロから何かを生み出すようなクリエイティブ的な仕事はAIの苦手とすることだと言われてきましたが、昨今ではAIによってこの領域までもが人間から奪われるのではないかといった議論もあります。
しかし、ここで重要なのはAIに必要以上の恐怖を感じるのではなく、むしろ、AIを活用するという視点です。
例えば、新サービスや新規事業のアイデアを出して仮説を立てるようなブレインストーミング会議の場。デザイン会社においてはつきものです。ここでAIを活用することで、仮説の幅が広がり、より良質なユーザー体験の設計につながる可能性が高まったりします。
「例えば、スマホのアプリを仕事のツールとして活用するなどという行為は、スマホがなかった時代には想像もできなかったこと。このように、想像を超えたアイデアの一手をAIに任せることで、より素晴らしいサービスや事業を展開することができるのではないか」とBrandon氏。
AIを自らの成長につながるツールとらえて、アイデアだしなど身近なところから取り入れられる柔軟性は、まさにAI時代のクリエイターが身につけておきたいスキルというわけです。
また、AIは便利さ、快適さの追求という目的で語られることが多いですが、それだけでなく、もっと楽しいものを作るという観点で活用してみてもよいかもしれません。
AIは膨大なデータを分析し、ユーザー個人が意識しないうちにその人のベストなタイミングで体験を提供することができます。その体験には、便利さや快適さだけでなく、驚きやおもしろさという視点があってもよいのではないでしょうか。
クリエイターならではの発想でAIを活用できれば、今までにはない楽しいヒット作を新たに生み出せるかもしれません。
■AI時代をクリエイターが生き抜く方法とは?
ではAI時代において、クリエイターはどう学び、どう自分を成長させていけばよいのでしょうか?
Brandon氏はこう指摘します。
「AIそのものについて学ぶよりも、AIを活用したプロダクトを研究すること。プロダクトにAIが組み込まれていることにより、これまでできなかった新たな価値を生み出すことができる。そこにさまざまな成功パターンを知るためのヒントがある」。
次から次へと新たな技術が登場する目まぐるしいAI時代を勝ち抜くには、世の中の一歩先を見越した情報収集が欠かせません。トレンドや、消費者・ターゲット層の興味・関心などに常にアンテナを張り、情報をキャッチするセンスは、これからの時代、ますますクリエイターに必要な資質であることは間違いないでしょう。
これは、クリエイターに求められる力が、グラフィックやプロダクト、Webなどの単なるデザインにとどまらず、デザイン思考によるビジネスデザインなど、ビジネス全体を俯瞰してデザインをまとめる領域まで広がりを見せていることが背景にあります。
ただし、日本ではまだデザインの文脈でAIの情報というのは見つけにくいかもしれません。そのため、海外記事なども含めて検索し、学んでいくことが求められます。「AI×デザイン」の先進事例をBrandon氏に挙げてもらいましたので、ぜひ調べてみてはいかがでしょうか。
(もちろん、Btraxの自社ブログ「freshtrax」でもAI×デザインについての情報が集められています。Brandon氏の記事は日本語で読むこともできます。)
一つめは、amazonの人工知能スピーカー『Echo』。もう一つは、グーグルが買収したネスト社による『Nest Learning Thermostat』です。
「いずれも、人工知能が活用されたプロダクトで、使いやすくて、見た目もよい」と同氏は評価しています。
この2点のプロダクトについては【後編】で改めて詳述したいのですが、amazonの『Echo』は、今後ますます増えるとみられる会話型インターフェースの一例です。機械が人と会話をしながら人の生活を助けるというもので、この会話型インターフェースの発展と普及に伴い、今後はライティングスキルのあるデザイナーの需要が高まるという見方もあります。
(A.C.O. Jornal『AI(人工知能)の時代にデザイナーはどんなスキルが求められるのか』 http://aco-tokyo.com/journal/thinking/79/ )
ちなみに、この記事では、これからのデザイナーに必要とされる新たなスキルとして「ライティングスキルのほか、エンジニアとAIについて雑談ができる程度の知識、データを読み取りそこに付加価値を与える能力、心理学(心理学はユーザー心理をより一層深く理解するため)」なども挙げられています。
もちろん、商品やサービスの視覚的な差別化のためのビジュアルデザイナーの能力の重要性は言うまでもありません。AIをよりユーザーに親しみやすい存在にするためのアニメーターやキャラクターデザイナーの需要も高まりそうだとか。
amazonの『echo』も、日本で開発されていれば円筒形ではなく人型など何らかのキャラクター性を持たせたロボットに仕立て上げていたかもしれません。
■広告デザインの世界でAIはどうなる?
それでは、広告デザインとAIの関係性はどう変わっていくのでしょうか。広告のデザインにおいて、技術的な面のほかにAIの活用は可能なのでしょうか?それ以上に、AIが広告をデザインするということもありえるのでしょうか?
「アートやコピーライティングといった、メッセージを伝える、人の心に響かせるといった分野は、AIが最も苦手とするところ」だとBrandon氏。
すると、広告のグラフィックデザイン制作はAIにはできないことなのでしょうか?
そもそもの『広告の定義』について、氏は「世の中の多くの人は、デザインとアートの違いは何かと聞かれるとわからないと思う。最も端的に言うと、デザインは問題解決、アートは表現。そして広告は、デザインとアートの中間ではないでしょうか」と考えているとのこと。
その観点で考えると、広告は売上を上げるという目標はありますが、ユーザーの抱える本質的な問題を解決するものではありません。
また、広告には、企業から消費者へのメッセージを伝えるというコミュニケーションとしてのデザインの役割がありますが、同時に、広告のクリエイティブにはある程度アーティスティックな要素が必要とされます。
AIが、膨大なデータを分析し、既存のものを再構築するといった手法で広告を制作することは技術的に不可能ではないかもしれません。実際、ユーザーの反応が良い広告を出し分けするといったことでは、AIが既に活躍をしています。
しかしながら、人の心をどれだけ動かすことができるのか-人の心が揺さぶられるようなクリエイティブを創造できるかは、現段階では未知数なのです。
広告のクリエイティブにおいては、いましばらくヒトのクリエイティビティがものをいう状況が続きそうですが、私たちの生活にはどんどんAIが進出してきます。デザイナーが常にそうした新たなプロダクトの情報を敏感にキャッチし、時代の最先端に精通していることは、広告の仕事に必須であるのはもちろん、いずれAIが関連するようなプロダクトやサービスのデザインの仕事が増えてきた時に対応しやすくなるでしょう。
さらに、ビジュアルデザインにとどまらず企画や経営に関心を広げれば、AIの発展により革新的なモノが誕生する可能性の高まっている現代、デザイナーが今までより一層、活躍できるチャンスが広がっているといえるのです。
ラストの【第3弾】では、今アメリカで話題の人口知能を搭載した2点のプロダクトを軸に、AIとデザインの関係と今後について見ていきたいと思います。
【AI×デザイン特別企画】
前編:ビジネスにおけるデザインのあり方と人工知能(AI)の本質とは?