空前のAIブームの昨今、多くのAIがビジネスの現場に投入されています。今回は、世界の最先端を走るデザイン都市サンフランシスコを拠点に、日米両国はもちろんグローバルな活躍を見せるデザインコンサルティング会社・BtraxのCEO、Brandon Hill氏に取材し、来るべきAI時代のデザイナーのあり方や日米の相違などについてお話をうかがいました。「『AI×デザイン』の未来はどうなる?今、最もクリエイターが知っておくべき変化の兆しとは?」について、前・中・後編の3本立てでお伝えします。
■「デザイン」はビジネスを成功に導くために欠かせないもの
「デザインを通じてビジネスを成功に導く」をビジョンとして掲げるBtrax(http://www.btrax.com/jp/)。2004年の設立から今にいたるまで、一貫してデザインを軸に企業が抱える社会課題解決に取り組んできました。
CEOのBrandon氏は日本で生まれ育ち、大学からアメリカ・サンフランシスコへ。デザイン科に在籍していた学生時代からフリーランスでWebデザイナーとして活動していました。
卒業後の2004年にBtrax社を創業。当初、Web制作会社としてスタートしましたが、2007年にアメリカでiPhoneが発表されたことを転機に、Webの世界にとどまらずマーケティングやブランディングの要素を加えながら事業領域を広げていきます。
2013年には日本法人も設立し、日本の大企業と組んで、新規商品の開発やユーザーの視点に立った快適さや楽しさを重視したUX(ユーザーエクスペリエンス)デザイン、サービスデザインに取り組むなど、テクノロジーとデザイン、ビジネスの3つを軸としたデザインコンサルティング事業を展開するに至っています。
現在は、目下、世界級の革新的なプロダクトを産み出すことを目指し、新たな事業を推進中です。
起業やスタートアップがさかんでデザイナー人口も多いサンフランシスコという場所は、1年で従業員が100倍になるというのが当たり前、成長し続けないと生き残れないという街でもあります。
バイタリティが常に問われ、過酷とも言える世界で10年以上にわたり活躍しているBtrax。
その変遷を怒涛の現場で見つめてきたBrandon氏は、スマートフォンの登場と普及という社会の変革の中で、「デザイン」の舞台は紙媒体やスクリーンの上から飛び出し、どんどん広がっているといいます。
「デザインとは、単に見た目だけを整えるものではないのです。今やデザインするということは、UXデザイン、デザイン思考など、ビジネスのコンセプトを固める上で欠かせない表現方法でありプロセスそのものだと思う」とBrandon氏。
この「デザイン思考」という考え方はご存知でしょうか。同社のブログメディア「freshtrax」には、デザイン思考の考え方についてこうあります。
「デザインする行為はデザイン思考のごく一部に過ぎません。最も重要なのはデザイン的プロセスを通し、どのような問題に対してもクリエイティブなアプローチを活用して解決しようとする考え方です」(http://www.blog.btrax.com/jp/2013/06/02/d-thinking/)。
ビジネスの戦略や商品開発の段階からデザイナーが深く関わり、ユーザー目線で設計を行おうという潮流。Webデザインからデザインコンサルティングへと同社が事業を変遷させてきたことにも重なります。
こちらのブログにはほかにも、従来型の〝絵を描く”グラフィックデザイナーよりもUI(ユーザーインターフェース)やUXを設計するデザイナーの需要が高まってきているというサンフランシスコのデザイナー事情や、ビジネスにデザイン思考を生かすことが新たな常識になりつつあるといった情報が満載で、デザイナー諸氏は必読です。
デザイナーの活躍できるフィールドがどんどん広がっているとわくわくするか、絵を描いているだけではデザイナーとしてやっていけないの?と不安になるか。あなたはどのように感じるでしょうか?
■実はシンプル。「AI」のとらえ方とは?
今回の取材で大きなテーマとして掲げていたのは、「AI」とデザインを取り巻く最先端の潮流を把握すること。
では、「AI」とは何か。
こう尋ねられたら、あなたならどのように答えますか?
Brandon氏はこう言います。「人工知能とは…なんて難しいことは考えない」。
そして、こう続けました。「“AI”は常に“データ”と対をなすものであり、蓄積されたデータを元に学習して動く、「ビッグデータ活用」の手段なのです。つまり、AIは、ユーザーに最適な体験を提供するツールであり、最適なユーザー体験、最も有効なデザインをほどこすためのツールということです」。
AIが急速に発達しようと、あくまで軸足はユーザーに置き、ユーザーのためにどう活用するかを考えてきたというBrandon氏。そのスタイルは、実にシンプルです。
■デザインコンサルティングにおけるAIの可能性
AIを「ユーザーに最適な体験を提供するツール」という見方は言い換えれば、AIを活用すればユーザー1人ひとりにおいての最適な体験を提供できるということ。
例えば、AIについて目下、注目されているものに「ボイスコマンド」という技術があります。
アップルやグーグル、amazonも取り組んでいるもので、人の声を機械が認識して反応するというものですが、AIが1人1人の声の調子やなまりなどをユーザーから学び、個々のユーザーに応じた作動をするよう設計するというUXデザインに活用できることは想像できますね。
そう、「デザイン×AI」についての展望は、Brandon流でとらえると、とてもポジティブなもの。
「AIですべてが変わってしまうかのように言われているようなところまでには、まだ時間がかかる」と話すBrandon氏の見立ては、AIによって何かが変わるというより「活用する」というものでした。
「デザイナーは、古くは鉛筆で書いて仕事をしていたのが、デザインソフトが出てきたらデザイナーの仕事がなくなったか?そうではなく、そのソフトを活用してよりよいデザインを作り出すことがデザイナーの仕事になったということと同じで、AIを活用して、よりよいデザインをすることがデザイナーの仕事となるのでは」と説きます。
つまり、デザイナーの活用すべきプラットフォームが進化しているということ。
当然、そのプラットフォームを活用するようなスキルは必要となるでしょう。
それでは、デザイナーがAIを活用するというのは、どういうことなのでしょう?デザイナーは今後、どのようなスキルを磨いていくべきなのでしょうか?
中編に続きます。
【AI×デザイン特別企画】
前編:ビジネスにおけるデザインのあり方と人工知能(AI)の本質とは?